「家康プロジェクト」
浜松市は、2023年に放送されたNHK大河ドラマ「どうする家康」によって、浜松市に318億円、県内に408億円の経済波及効果があったと発表した。2017年に放送された「おんな城主 直虎」を大きく上回る結果に結びついた裏で、遠鉄グループではドラマの舞台となる浜松市の魅力をどのように全国に発信し、どのように地域経済の活性化を図ったのだろうか。たった一人で一年間のプロジェクトを完遂した伊藤典明さんにお話しを伺った。

ドラマを活用した観光振興による
地域経済の活性化を一過性のもので終わらせない

─── プロジェクト発足の経緯を教えてください。

プロジェクトの経緯としては、まず浜松市が2023年のNHK大河ドラマ「どうする家康」を契機に観光振興と地域経済の活性化を図るための官民連携組織「家康プロジェクト推進協議会」を2021年10月に設立したところから始まっています。そこで 遠鉄グループでは、市の動きと足並みを揃える形で、 11月1日に社内組織として家康プロジェクトを発足しました。メンバーは私一人で、行政や外部組織などの関係各所と遠鉄グループをつなぐ窓口として、グループにおける誘客効果の最大化とグループ内外の大河に向けた機運醸成を目指し、情報収集・調整・交渉を行うことが主な役割でした。

─── プロジェクトが目指したこととは?

プロジェクト発足時から肝に銘じていたことは、今回の観光振興による地域経済の活性化を一過性のもので終わらせないことです。7年前の大河ドラマ「女城主 直虎」では、ドラマ館が北区にあり、電車やバス、タクシーなどかなりの経済効果を生みましたが、ドラマの放送終了と共にその盛り上がりも終わってしまいました。今回のプロジェクトで始まった新しい試みや繋がりが何らかの形でレガシーとして残るよう、持続的な観光誘客を図るというところが大きな目的でした。

遠鉄グループのリソースを活かして
どのようなことができるか

─── プロジェクトとして取り組んだことは?

当時はコロナ禍が収束まで至らない時期でしたが、浜松市や静岡県ではマイクロツーリズムや地域内周遊などに補正予算や補助金が出ていました。そこで、補助金を利用して、浜松市の豊かな自然と家康公ゆかりの歴史スポットを巡っていただくためのデジタル周遊チケットを運輸と協力して企画・販売しました。またこのチケットの発売を機に、遠州鉄道、天竜浜名湖鉄道、浜名湖遊覧船の3社が集まり、継続的な観光誘客と地域内周遊の促進を目的とした「浜松・浜名湖観光誘客周遊促進協」を設立しました。

また、大河ドラマ館のある中心市街地の回遊施策と予算調整も、関係各所と協力して行いました。なかでも駐車場不足対策については、浜松市中心市街地の駐車場の満空情報をリアルタイムで確認できるアプリを遠州鉄道ICT推進課と開発しました。遠鉄グループのリソースを活かせるかを常に考えながら、プロジェクトを進めていきましたね。

それから、浜松まちなかにぎわい協議会がつくった「徳川四天王」のオリジナルキャラクターを使い、遠鉄グループでキャラクターのラッピングを施したバスやタクシーを走らせました。さらに、浜松市公認マスコットキャラクター〈家康くん〉のイラストを盛り込んだラッピング電車を走らせ、内装にはお客様が写真撮影をお楽しみいただけるよう、一部に紫色と葵の御紋でラッピングした「殿シート」も用意しました。また運行開始にあわせてさまざまな企画を実施するなど、放送開始に向けて機運を醸成しました。そのほか遠鉄グループの窓口として、ホテルや百貨店など関係各所の情報収集と提供や、集客プロモーション支援などを行いました。

─── プロジェクトで一番苦労した点、チャレンジした点は?

遠鉄グループの強みは、さまざまなリソースを持っているグループとしてのスケールだと思います。そこを上手くプロジェクトに活用できたところもありますが、関係者が多いだけに、情報の共有先の把握や、各事業所の意見を調整するといったところが難しかったですね。チャレンジしたことで言えば、やはりデジタル周遊券ですね。それまで実券の周遊券はありましたが、EMot(エモット)のデジタル周遊券は初の試みでした。これには天竜浜名湖鉄道、浜名湖遊覧船だけでなく、開発企業様も関係してきますし、公益財団法人の浜松・浜名湖ツーリズムビューローにもチケット利用施設の取りまとめ等でご協力いただきました。そういった関係各社との連携はもちろん、国交省への届け出やモデル賃金の作成など、私にとって新しいチャレンジが多かったですね。どちらにしても、こういったことに携われる機会は限られていると思うので、今回プロジェクトを担当する機会をいただけたというのは幸運だったと思います。

想いを持って働いていれば
誰かがちゃんと見てくれて、機会が巡ってくる

─── 家康プロジェクトに携わる前は、浜松まちなかにぎわい協議会に6年出向していたそうですね。

じつは浜松まちなかにぎわい協議会も、今回のプロジェクトも、もともとやってみたいという想いはあったものの、自分から手を挙げて希望が叶ったわけではなかったんです。でもそうした想いを持って働いていれば誰かがちゃんと見てくれて、機会が巡ってくるようになっているんですね。私の場合は本当に恵まれていて、浜松まちなかにぎわい協議会で中心市街地の地域づくり・まちづくりに携わらせていただき、その後この家康プロジェクトでまた地域に貢献できる役割を任せていただきました。どれも遠鉄グループにとってはすぐに収益としてリターンが見込める仕事ではありませんが、地域が豊かになれば遠鉄グループも儲かるという考え方のもと、こうして送り出してもらっていることは感謝しかないですし、懐の深い会社だなと思いますね。

何のためにやるのか、
やることでどういう効果を生むのかを考える

─── 浜松まちなかにぎわい協議会での経験が今回のプロジェクトに生かされましたか?

それはもちろんあります。浜松まちなかにぎわい協議会は、地域活性を目的とした団体ですので、企業が事業収益を第一に置いて活動するのとは違い、売上げや数字を求められることはありません。また、クライアントワークではなく、自分たちで企画して動くので「こんなことがしたい」という強い意志や企画を進める行動力が必要です。自分で決めて自分で動かなければ何も進まないというのは、自由がある分プレッシャーにもなります。今回も一人でプロジェクトを担当していましたので、その時の経験が活かされていると思いますね。またイベント等を企画していると、ついついイベントをやることが目的になってしまいがちですが、浜松まちなかにぎわい協議会では売上げや数字を求められないからこそ、常に何のためにやるのか、やることでどういう効果を生むのかということを考えるようになりました。イベントはや施策はあくまでもその先の目的のための手段。そういった考え方は、今回のプロジェクトを進める上でも大きく影響していると思います。

─── 家康プロジェクトを経て、繋いでいきたいレガシーとは?

今回はプロジェクトと言っても主な業務が遠鉄グループの窓口としての調整役や情報伝達など、各グループの伴走支援が中心でしたので、何か残せたのかと問われると、正直わかりません。ただプロジェクトの期間は行政、民間企業、地域の方々と一緒に地域をどうやって盛り上げていくかを考える1年でしたので、そこからあらたな地域づくり、まちづくりへと繋がっていく種は蒔けたのかなと思っています。私自身も現在は浜松・浜名湖ツーリズムビューローという浜松市の外郭団体に出向中ですし、観光振興やコンベンション誘致の側面から浜松・浜名湖地域のまちづくりに関わっています。今回のプロジェクトで生まれた新しい繋がりや仕組みを、浜松・浜名湖地域を動かす力として活かしていけたらと思っています。

伊藤典明
公益財団法人浜松・浜名湖ツーリズムビューロー(出向)
入社年/2005年

他県の広告会社勤務を経て2005年に地元浜松へ戻り遠州鉄道に入社。運輸事業部広告課(現経営企画部営業推進課)、浜松まちなかマネジメント(出向)、経営企画部家康プロジェクトを経て現在は浜松・浜名湖ツーリズムビューローにて地域の観光振興に取り組んでいる。

PAGE TOP

ご覧のブラウザでは当ウェブサイトを適切に表示できない可能性があります。恐れ入りますが、最新のGoogle Chromeでご覧ください。

Google Chromeからご覧になる場合には、ここをクリックしてください。