

運行から2年がたった現在も京都線は毎日運行しており、地域の足を担っている。
約10年ぶりの新規路線開設は手探りの連続(大石)
─── まずはプロジェクト発足の背景についてお聞かせください。
杉山:「京都線の構想自体は、遠鉄の高速バス事業がスタートしたころからあったそうです。京都といえば、旅行や観光地として不動の人気がありますからね。また、京都は大学都市としても知られていて、調べてみると静岡県から関西方面へ進学する学生の割合も京都が非常に多いことがわかりました。このような状況を踏まえて社内で協議していく中で、2022年の初旬に、京都への新規路線開設が決定したんです。その担当となったのが、私と当時まだ若手の大石さんでした。」
大石:「2022年というのは、ちょうどコロナの感染拡大が落ち着き始めた時期で、それまで運休していた高速バス路線が少しずつ再開しつつありました 。同時に、高速バスの新たな収益確保を模索する必要があったんですよね。『コロナ禍から脱却するタイミングで、高速バスのさらなる発展を画策していこう』って。それで白羽の矢が立ったのが、京都線の開設でした。とはいえ、最初は手探りの連続で、何から手を付ければ良いのかもわからない状態でした。聞けば、新規路線を立ち上げること自体、約10年ぶりのことだったんです」
短期間でゼロから立ち上げ まさに“超高速”(大石)
─── どのように新規路線開設を進めていったのでしょうか?
杉山:「大石さんが言う通り、まさにゼロからのスタート。まず手を付けたのが、過去の路線開設に関する資料を引っ張り出すことでした。何かしらのヒントがあると思い、2人でひたすら読み漁りましたね。あとは、高速バス事業の立ち上げから在籍する従業員の皆さんに話を聞きに行ったりもしました。そういった情報収集を重ねた上に、私たちのこれまでの知識や経験を総動員し、自分たちなりの“新規路線開設ノウハウ”を作り上げていった感じです」

大石:「ある程度、やるべきことのイメージが固まった段階で、次は実際の開設に向けた各種調整に取り掛かりました。京都にあるバス会社さんに展望を伝えてご協力を賜り、詳細を詰めていく作業ですね。経路はどうする?停留所はどこにする?運賃設定は?バス乗務員の教育は?……などなど、数えたらキリがないほどクリアすべき項目がたくさん出てきました。加えて、スケジュール的にもすごくタイトだったんです。春先から本格的な準備を始めて、運行開始目標は同年の8月1日。夏休みの需要をうまく取り込みたいという思惑なのですが、短期間でゼロから立ち上げるなんて、まさに超高速プロジェクトでしたね」
杉山:「毎日さまざまなタスクをこなさなければならず、矢の如く時間が過ぎていった中でよく覚えているのは、運行を直前に控えた6~7月にかけて、毎週のように京都出張をしたこと。しかも、時間がないので毎回、日帰りで(苦笑)。京都のバス会社さんとの打ち合わせがメインでしたが、その他にも、弊社の乗務員を連れて現地の運行経路の確認をしてもらうなどの教育面にも力を注ぎました。ありがたかったのは、乗務員からも『もっとこうしたらどう?』といったご意見をたくさんいただけたことです。京都線の成功のためには、“現場の声”を踏まえての教育・指導がとても重要だと感じていましたから。プロジェクト開始当初は『大石さんと2人で何とか乗り切ろう』と考えていましたが、蓋を開けてみると、さまざまな人たちが自分のことのように協力してくださり、チームとして目標達成に向かって進んでいることが実感できましたね。これも諦めずに達成するための大きなモチベーションにつながりました」
─── プロジェクトを進める中で、一番大変だったことは何ですか?
杉山:「全部です(笑)。申し上げた通り、何もわからないところから作り上げた路線ですからね。特に、大石さんは当時まだ若手だったし、既存路線の再開業務も並行してやっていたから、本当に大変だったと思います。しかし、今考えると、すごく貴重な経験をさせていただいたのは間違いありません。未熟な私たちにこれほど大きなプロジェクトを任せてくれたことへの感謝もありますし、京都線の開設に携わったことで運輸事業に関する理解をグンと深めることができました。また、次世代のために、新規路線開設のノウハウを構築できたことも大変意味のあることだと思っています」
大石:「同感です。タイムリミットが刻々と迫る中でも、できるだけ『お客様に喜んでいただけるように』と、運行計画を細部まで丁寧に作り込みができました。妥協することなくプロジェクトを進められたのは、遠鉄グループ全体に浸透する『どんどんチャンスを与えよう!』という社風の後押しもあったからだと思います。ここで働いていると、周囲の影響もあってか、自発的に『自分がやらなきゃ』という使命感が湧き上がってくるんですよね。やっている時は大変だしつらいこともあるのですが、だからこそ、その先にある達成感や満足感といったものはひとしおです」
『当たり前に、走っている』ことが何よりの達成感(大石)
─── 運行初日の8月1日はどんな思いでしたか?
杉山:「第一便のバスが出発した瞬間は、素直にホッとしましたね。高速バス乗り場でちょっとしたセレモニーを開催し、お客様のご予約もしっかりいただくことができました。『予約なしでのスタートだったらどうしよう…』と心配していた時期もありましたから、無事にお客様にご利用いただけたことをうれしく思いました。上司からは『よくこの短期間で達成できたな。お疲れ様』とねぎらいの言葉をかけていただきましたね。京都線は現在も毎日運行しており、徐々に認知度を上げ、ご乗車のお客様が増えてきています」
大石:「私の場合は、京都線の運行から2年たった今の方が、感慨深い気持ちになりますね。バスをはじめとする運輸事業は『その後』が大切ですが、京都線も毎日“当たり前に”運行するようになりました。この『当たり前に、走っている』というのが、運輸事業としてはすごく重要なことなんですよね。バスというのは、地域のお客様の日々の足を担っている乗り物なので、何事もなく運行していることにこそ価値があると思っています。そういった“当たり前”の中に京都線もカテゴライズされるようになったことに大きな達成感を感じています。自分たちで作った路線が、末長く地域の足として成長していくことが運輸事業の楽しさであり、面白さなんです」
杉山:「確かに、改めて考えると『新しく交通インフラを作り上げる』というのは、すごいことなんだなと思うよね」
─── 高速バス事業の今後の展望ついて教えてください
杉山:「京都線に限らず、遠鉄の高速バス事業全体にはまだまだ改善点や伸びしろがあると思います。今後はそこに焦点を当てた事業運営を強化していってほしいと思います。まあ、大石さんならきっと大丈夫だと思いますけど。期待しています!」
大石:「ありがとうございます。京都線は、2024年9月からエリア拡大を図り、豊川(愛知県)からでもご利用いただけるようになりました。今後は、杉山さんのおっしゃる通り、高速バス事業全体でその規模や価値の拡大を進めていけたらと思っています。e-LineRには、まだまだ大きな伸びしろがあります。日々の生活や業務の中で常にアンテナを張り巡らせ、路線の強化や改善のヒントを探り出し、新しい提案や価値創出につなげていきたいです」
移動手段の一つとしてもっと認知されたい(大石)
─── 最後に、お二人が考える「高速バスの魅力」と「運輸事業のやりがい」について教えてください
大石:「最大の魅力は『安価で、乗り換えが不要』なところです。飛行機や電車、新幹線もあるけど、そんな移動手段の一つとして“高速バス”という選択肢がもっともっと広く認知されることを願っています。実際に乗ってみると、予想に反してすごく快適だと思いますし、とても便利な交通手段ですから。また、高速バスご利用者様専用駐車場付きの乗り場(浜松西ICなど)をご用意しているなど、そういった独自の利便性についてももっとアピールしていきたいですね。まずは移動手段の検討材料のひとつに挙げていただけるように、そして、実際に使っていただくことで、次からは『高速バスだよね』とリピートしていただけるように。そんな流れができるよう努力してまいります」

杉山:「自分が考えたことが形になり、それがだんだんと地域に浸透していく。当社の運輸事業の楽しさは、そんな部分にあると思います。バスの運行をはじめとする運輸のチカラは、今後もさまざまな切り口で、地域社会や市民の生活に多大な影響を与えていくはずです」
大石:「社会貢献性が極めて高い仕事ですよね。運輸のインフラを運用・創出することで、地域の支えとして、深く地域の生活に溶け込んでいくような、そんな仕事だと感じています。先ほども申し上げましたが『毎日、当たり前に運行する』ということは、『地域のお客様にとってなくてはならない存在』であると思っています。当然、地域の足を担うということはとてつもなく大きな責任とお客様を安心・安全にお届けするという信頼性が求められますが、そういったプレッシャーの中で、他では得られない数多くの経験で自身を成長させながら、交通というサービスを通して地域のお客様に貢献していくことが、運輸事業部での大きなやりがいです!」


杉山 文啓
運輸事業部
自家用車請負課
入社年/2016年
2016年5月入社。浜松駅バスターミナルでの勤務を経て、2017年4月より運輸事業部計画課に配属。空港・高速バス担当として新規バス停乗り入れやチケットのデジタル化などを経験。2023年4月より自家用車請負課に異動。

大石 大輔
運輸事業部
計画課
入社年/2018年
2018年4月入社。浜松東営業所での勤務を経て、貸切バスの提案営業を経験。2020年10月より計画課に在籍。空港・高速バス担当として新規路線の開設に従事。そのほか、路線バスのダイヤ編成なども経験し、現在に至る。